かなり面白い記事がありました。
記事の超簡潔要約
記事の中で、3つの発言が非常に面白いと感じました。
- バズを狙った瞬間、それは死になる。私達は、ただ面白いと思ったものを出した(ピート・ドクター)
- 人々はオリジナル作品を求めると口では言うが、財布の紐となると続編に軍配が上がる(ピート・ドクター)
- 『ドッグ・マン』『野生の島のロズ』、そして最近の『GOAT』といったオリジナルアニメーション映画がいずれも好調だったのは、純粋に良い映画だったから。それは長期的な配当をもたらす資産になりえる。(ポール・デルガラベディアン)
一つずつ深ぼっていきます。
Maru’s Comment
こういう話は楽しいですね。
人の心理に沿った話は、深掘り甲斐がありますね。
バズを狙った瞬間、それは死になる
どうして、バズを狙った瞬間、それは死になるのでしょうか。
人は「自分が選んだ」という感覚を持ちたいものです。
「みんながシェアしているから」だけではなく、「自分もこれは面白いと思う」という自己帰属の感覚が必要になるのです。
動機づけ心理学「自己決定理論」の自律性に関係していますね。受動的な人でも、「乗せられた」と感じた瞬間に自律性が損なわれ、シェアする気が失せるわけです。
なぜ私たちは「バイラル狙い」を嫌うのか
人間には、自由や自律性を脅かされると反発する「心理的リアクタンス」という性質があります(Brehm, 1966)。「これをシェアしてほしい」という意図が透けた瞬間、むしろシェアしたくなくなるのはこのためです。
さらに「過正当化効果」も働きます。もともと面白いと感じていたコンテンツに商業的意図が加わると、純粋な面白さの感覚が上書きされてしまいます(Lepper et al., 1973)。
「バズらせようとしている」と気づいた瞬間、コンテンツ自体の価値評価が下がるのです。
世代によって違いはあるか
Z世代(1997〜2012年生まれ)は、生まれた時からインフルエンサーマーケティングやステルス広告に囲まれて育ったため、「これは広告か否か」を識別するリテラシーが非常に高い傾向があります。Morning Consultの調査では、Z世代の74%が「ブランドが本物に見せようとしているとき、すぐわかる」と回答しています。 参考:https://morningconsult.com/gen-z-brand-authenticity/
ただし興味深いのは、Z世代は「バイラル狙いを隠そうとすること」を嫌うのであって、狙い自体を必ずしも嫌うわけではない点です。「わざとダサい広告」や「自己言及的なプロモーション」は、むしろ好意的に受け取られることがあります。
つまり現代の受け手、特にZ世代以下に求められているのは「意図を隠さないこと」かもしれません。
人々はオリジナル作品を求めると口では言うが、財布の紐となると続編に軍配が上がる
なぜ人は「オリジナルが見たい」と言いながら続編を選ぶのか
これは行動経済学でいう「言行不一致」の典型です。カーネマンの「システム1・システム2」理論で説明すると、「オリジナルが見たい」はシステム2(理性・建前)の発言であり、実際の購買行動はシステム1(直感・習慣)に支配されています。映画のチケットを買う瞬間、人は無意識に「失敗したくない」というリスク回避を優先するのです。
でも、その中でも、毎回新作を観に行く人がいますよね。これは、心理学者のBrewer(1991)が提唱する「社会的アイデンティティ理論」で説明できそうです。人は特定のグループへの帰属が自己概念の一部になると、そのグループの行動規範に従って動く。「ピクサーの新作は必ず劇場で見る」という行動が、もはや選択ではなくアイデンティティの表現になっている状態ですね。いわゆる「ファンダム」です。
こういうお客さん(まあ私のことですね)はどんな評価でも、観に行ってくれます。
では、どうすれば、こういうお客さんを作れるのか。
それに関しては、強烈な感情のピークが積み重ねだと思っています。
「ピーク・エンドの法則(Kahneman)」では、人は体験の平均ではなく、最も感情が高まった瞬間と終わり方で記憶を評価する、と言われています。
この瞬間が増えれば増えるほど、「次もあの体験をくれかもしれない」という強い期待値が形成されるわけです。
映画に限らず、エンタメにおいてはこのような「強烈な感情の揺さぶりの瞬間」をどの程度積み重ねられるかどうかで、その人がコアファン=アイデンティティーを感じてくれるファンになるかに大きく影響していそうです。
純粋に良い映画は長期的な配当をもたらす資産になりえる
「良い映画」は主観に見えますね。
まあ、実際殆ど主観でいいと思っています。
ただ今回は出来る限り構造的に説明しようと努めました。
心理学者のジョナサン・ハイトは、人間が感動する瞬間を「エレベーション(elevation)」と呼びました。他者の善意や美しさに触れたとき、胸が温かくなり、自分も良くなりたいと感じる状態のことです。『野生の島のロズ』が評価されたのは、まさにこの感覚を呼び起こしたからなのでしょうね。
良い映画に共通するのは、極めて具体的な物語が、普遍的な感情に着地する構造だと思っています。
具体性がなければ記憶に残らず、普遍性がなければ他人事になる。この両立が「良い映画」の核心に近いのだと。
さいごに
バイラルも続編ブランドも、結局は「良いコンテンツ」という土台なしには持続しません。
そして、今回はわざと構造化しましたが、良いコンテンツは狙って生み出すことができません(狙われたものはお客さんに見抜かれる)。
難しいが、楽しいですね。

